退職優遇制度で転籍・転職が促進される
年俸制、役職定年制導入などで中高年社員に今後の針路を考えさせたところに、今度は「早期退職者優遇制度」の導入である。
会社はの鞭の次は飴で中高年社員で退職を迫ることになる。
早期退職者優遇制度の趣旨は、一定年齢以上の社員が定年前に退した場合は、退職金の上積み等の優遇を行うというものである。
早期退職に応ずる社員にとっては退職金の増額、転職・独立など第二の人生への早期取り組みが可能になるというメリットがある。
一方、会社としても一時的な退職金負担は必要だが、長期的には人件費など固定費は軽減する、人事の停滞は回避され組織は活性化するなどのメリットがある。
表面には、企業側、中高年社員側、それぞれメリットが多いように見えるのだが…、
ここで、比較的うまくいったといわれるケースとして日本IBMの事例をとりあげてみる。
日本IBMは93年3月期は初めての赤字決算。
これを受けてリストラに着手。
50歳以上社員が対象の早期退職者優遇制度による退職者の募集、関連会社への転籍などにより、3年間で従業員数を2万5千人から2万人へと大幅に縮小させた。
すでに94年3月期決算は黒字に転換するなどリストラ効果はあがっているものの、しばらくはこの政策を継続し経営体質強化に努める方針といわれている。
同社に限らずこの制度は「あくまでも中高年の福利厚生策、第二の人生設計を早いうちに進めてよりよい第二の人生を送ってもらうためのバックアップ制度」というのが導入企業に共通する表面的理由である。
日本IBMの場合も「セカンド・キャリア支援プログラム」と称した。
同社のプログラムの概要についてみると、50〜51歳でグループ会社に転籍すれば規定の退職金プラス月額給与15ヶ月分、グループ以外企業への転職の場合は退職金プラス21ヶ月分の支給となる。
月額給与は転籍の場合、親会社在籍時の55%程度といわれるが、割増退職金を年金化してプラスするとはゞ同レベルになるという仕組みになっている。
また、転籍先の関連会社の株を退職金で購入すれば役員としての道も開ける。
この制度に応じて退職した社員1632人の行き先は次のようになっている。
・共同出資会社への転籍 845名
・他企業への再就職 380名
・日本IBMの嘱託(パート)23名
・独立その他 384名
この中で、特に注目されるのは共同出資会社である。
退職者と日本IBMの共同出資会社で、コンピュータ保守、営業事務代行、購買委託業務、人事・福利厚生・研修の業務代行、広報宣伝・セールスプロモーション、技術資料の翻訳など多岐にわたる関連会社群を形成している。
これらはそれぞれ資本金1,000万〜3,000万円の中小企業でスタートしている。
中には、コンピュータ周辺機器の開発・製造で日本IBM以外にも納入先を拡げ、すでに年商130億円を突破した企業もある。
このように日本IBMの「セカンド・キャリアプログラム」は一応の成功をおさめたわけだが、その背後には特殊でラッキーな要因があったことを認識しなければならない。
・退職志望者に時代性のあるコンピュータ関連の専門技術者が多かったこと
・それがタイミングとしてパソコンブームと重なり、再就職先に恵まれたこと
・日本IBMは同分野の日本企業に比べて歴史が浅く、関連会社の形成が遅れていたため、系列会社設立のニーズがあったこと
・経営の合理化策の一つとしてアウソーシング(業務の外部委託)を進める必要があったこと
・したがって、業務を知悉している退職者を主体とする各種サービス会社(退職者には受け皿会社)設立の必然的ニーズがあったこと
このような二重、三重の幸運に恵まれたケースは滅多にない。
一般的には、中高年退職者の行く手はなかなか順調とはならない。
ここに日本の代表的商社A社の優遇制度による退職者のその後についての分析資料があるが、成功例はあまり多くない。
成功組とは商社時代の取引先へ好条件で転職した者、専門性を生かしてのコンサルティング会社を設立した者、大学に迎えられた者などがある。
失敗組(現在模索中も含めて)は、割増退職金を元手に独立開業したものの武家の商法で失敗した、以前の会社、人材銀行などの斡旋を受けているがいまだ求職中(失業中)の者、泣く泣く年収4割ダウンの会社に再就職した者など様々である。
こうした早期退職者優遇制度の導入状況であるが、上場企業で51.6%、2年前に比べて12.0%もアップ、導入企業は増加傾向にある。
これに導入検討企業9.0%を加えると6割以上の企業で実施されることになる。
また、規模別にみると従業員1,000人以上の大企業は71.4%が導入済みで、現在導入を進めているのは1,000人未満の中堅企業、中小企業が主流となっている。
年俸制、役職定年制で示したように、今は、会社に残るのも大変な時代である。
そして退職者優遇制度の結末にみるように「去る」もまた大変な時代である。
日本IBMの事例はきわめて特異なケースである。
再就職にあたっては50代の求人倍率は0.1倍、10人に1人しか仕事につけない、運よく見つかったとしても、中高年の場合は以前の年収の30%ダウンが普通で、半減することも珍しくない時代である。
しかし、こうした賃金評価は不当に低いのではない。
これまでぬくぬくと年功制度に守られて高賃金を得ていた「会社人間」が会社の外に出て再スタートするにあたっての市場価格と知るべきである。
裸の自分に対する現在の評価を受け止め、底辺から再出発する覚悟があればいろいろの可能性も見えてくる。
着眼したい分野としては、例えば人材不足に悩む中堅・中小企業、地方企業。
雇用創出力のある流通、サービス、福祉などの事業領域等々様々である。
手をこまねいているだけでは何ともならない。
経理・財務等の管理職、マーケテイングの専門職を求めているある中堅企業の経営者は次のように述懐されている。
「面接しても裏切られることが多い。
最も役にたたない人種は、一流大学あるいは有名企業出身でプライドが高く、かつての肩書きに固執するホワイトカラーだ」。
かつての栄光を捨て裸の自分からスタートしようとすれば道は開ける。
年収が30%落ちようと、50%落ちようと、あとは入った会社で実力で取り戻すことだ。
ここでも「一歩後退、二歩前進」の前向きの姿勢が大切である。
退職金が減る
「このままでは退職金倒産が起こる」と早くから日本型雇用システムの課題として退職金制度は問題視されてきた。
ただ、定年者が増大する、不況だからという理由だけでいきなり改訂もできず、厳密で納得性のある基準の設定が必要であり、企業の多くは現在試行錯誤の段階にあるといえる。
改訂の狙いは二つあり、第一は退職金支給基準の抜本的見直しであり、第二は年金化である。
いずれにしても、退職金負担を減らしたいというのが企業の本値である。
基準改訂の基本的方向は退職金の上昇カーブ抑制。
そのために、ベアを退職金算定基準から外す、50歳以上を一律定年扱いとするなど一定年齢で支給金額を頭打ちにする、年功による一律査定ではなく貢献度も加えた2本立ての算定基準の設定などが検討課題となっている。
年金化は、厚生省の公的年金支給年齢の改訂がその背景にあり、公的年金支給開始の空自期間の穴埋めという狙いもある。
企業サイドにも原資の確保と資金圧迫を回避するメリットがある。
方法としては、退職金を100%年金化、「一時金」・「年金」の複数パターンを設定し選択させる、年金選択の場合は特別加算金を上積みするなどが検討されている。
以上、退職金についていえる確かなことは、制度が大きく変わり、
たいした貢献もなく年功だけを重ねている人の退職金は増えない、
増えないどころか現在想定している退職金よりも相当低い退職金しかもらえない、
そんな時代が近い将来やって来るということである。
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