中高年サラリーマンの転職の意義と成功条件
会社を辞めたい、また辞めたくなくてもリストラを迫られた時、これまで組織で生きてきた「会社人間サラリーマン」の多くは、まず「転職」というコースを選ぶことになる。
しかも、時代は人材流動化時代、若者を中心に転職志向が高まっている。
また、大手企業であれば、様々な転職支援の制度もある。
だが、いざとなると中高年にとって転職のハードルが高いのが最近の情勢である。
特に、中高年ホワイトカラーの場合は、自分に適合する求人先がなかなか見つからない。
もし、あったとしても、給与その他の勤務条件が大幅のランクダウンとなるケースがほとんどである。
それでも、わが家の経済生活は維持しなければならない。
転職を成功させねばならない。
そこでここは、まず転職市場を分析し、それに次いで、転職先の見つけ方、中高年の転職成功条件についての検討を進めるものとする。
ただし、中高年になってからの転職には、単なる経済面にとどまらないもう一つの大きな意義がある。
40歳台、50歳台という世代は人生 の折り返し点に立つ世代であり、「転職」という機会は、これから始まるシニアライフ設計のチャンスでもあるし、スタート台でもあるのだ。
この意義を噛みしめて、物心共にゆたかなシニア生活のために、転職という機会を活かして欲しいものである。
12人に1人は転職したい
転職を希望している人の数は519万人もいる。
総務庁の調査によると、85年には366万人だった転職希望者は95年には過去最高の519万人、つまり就業者全体の12人に1人は転職したいと考えているのである。
その中で195万人の人が実際に仕事を探している。
なお、95年の完全失業者は210万人だから、その2倍以上の転職予備軍がいることになる。
問題はその中身だ。
リストラの第一候補の中高年者は転職指向が低く若者中心の転職市場となっていることだ。
米国の大卒ホワイトカラーの場合は入社後数年間は転職を繰り返し、天職を見つけ、その職場でキャリアをつんだ後定着率が急速に向上するといわれている。
日本の場合、定職につかなくても衣食住は何とかなるという豊かな時代を背景に、いまの若者は「我慢ができない世代」であり、「いやなら我慢しないで辞めればいい」と考えているとされる。
人材流動化の時代が始まったといわれているが、東西を問わず若者を中心としているのが、転職市場の特性なのである。
逆に、中高年の場合、時代に逆行して定着志向が高まりを示している。
中高年の場合は、追い込まれてからの「転職先」探しが主流となっている。
人材流動化への環境いまだ整わず
日本的雇用の崩壊と若年労働者の減少により、中・長期的には中高年者にも転職市場が拡大するのは確実だ。
しかし、この増大する転職希望者に対応する体制は旧態依然の状態であり、その整備は立ち遅れている。
特に、ホワイトカラーに対する職業紹介状況を職業あっせんの公共機関であるハローワーク(公共職業安定所)についてみると、需給のミスマッチが著しい。
即ち、安定所が扱う企業からの求人はブルーカラーが中心なのに対し、求職希望者は事務系が急増している。
その結果、中高年ホワイトカラーの場合は東京など全国25都市にある人材銀行が所管しているが、事務職の求人1人に対し求職者は100人という事態も生じている。
それなら定職がみつかるまでは人材派遣業を利用しようとしても、中高年サラリーマンには縁のない職種がほとんどである。
人材派遣のできるのは、コンピュータ関連、通訳、翻訳、速記、秘書、旅行者サービス、建物内清掃など13職種に規制されている。
そこで規制緩和の一つとして、労働者の審議会が広告デザイン、セールスエンジニアなど12職種の追加を提案。
やはり中高年サラリーマン対象のものは少ないが、その中に総務・人事分野の仕事である「企業の組織等に関する制度の設計または変更」という職種がある。
ただし、審議会の労働側委員は「企業の根幹にかかわる分野であり、派遣を認めるべきでない」と反対。
せっかくの中高年ホワイトカラーを対象とする提案も先き送りされる懸念がある。
こうした状況ではあるが、95年後半頃から民間職業紹介機関ではホワイトカラーを対象とする求人と成約数が増加傾向にあるという。
その背景には、中堅、ベンチャー企業が積極的な中途採用を行い始めていること、大企業も新卒重視から必要な人材を中途採用などにより随時獲得するなど雇用形態が柔軟になったことなどがあげられる。
職業紹介最大手、リクルート人材センターの紹介件数は2,300件と前年度の1,700件から大幅に増加したといわれる。
増加したのは、店頭公開を控えた有力ベンチャー企業、情報関連企業、外資系企業からの幹部、技術者の求人である。
しかし、中高年にとってはやはりハードルが高い。
例えば、求人側企業が求めているのは即戦力となる人材であり、頭の固い中高年者の場合は新会社に適応するには時間が必要とみている。
また、ベンチャー企業への転職などの場合は年収面で折り合いのつかないことも多い。
その一方、買手市場である求人企業側は中途採用者を厳選できる。
その結果、高度な管理、実務能力や専門技術を持つ人でないと転職は難しいというのが現状だ。
企業は真の人材を求めている
何も悲観することばかりではない。
会社はリストらを進めるその一方で、激変する経営環境に対応できる「真の人材」を求めているのだ。
そして、人材流動化時代を背景に中途採用を積極的に行おうとしている。
あとは、あなた自身の問題だ。
つまり、新しい職場に適応する自己改革と能力再開発(あるいは能力の見直し)を行い、自分自身に自信を持って新しい会社への転職へ挑戦することが出来るかどうかだ。
ここで、企業サイドからの中途採用に対するニーズの変化を整理しておこう。
以下、「大卒ホワイトカラー中途採用の現状に関する調査」(リクルート人材センター調査)から、そのポイントを要約する。
なお、調査対象は中小企業も含むリクルートサークル企業である。
「人員」は過剰だが、「人材」不足が重要課題となっている
長期不況下、解雇、出向などの雇用調整を実施する企業は多い。
この雇用調整は単に不況に対処するだけのものではなく、日本経済の構造変革に対応するための企業にとっては必然的政策である。
つまり、企業の発展方向が、これまでの量的拡大路線から、高付加価値化、低価格化、効率化など「質的拡充路線」へと変換した。
それに伴って利益体質の強化、生産性の向上、効率化を図る組織・機構の改革が企業の最重要経営課題となっている。
ところが、こうした経営課題を解決するための人材が十分にそろっているとする企業は1割程度。
それだけにこれら経営課題に対処できる「人材」については、現在の厳しい経営環境下でもニーズが強く、そうでない「人員」については雇用調整は続く。
転職にあたってはこうした二面性があることを、認識しておく必要がある。
人材が育つのを待てる余裕のある企業は少ない
現在、各社が求めているのは、次代を担う牽引車的役割の人材、経営に対して新しい視点から助言・提言できる人材、各部門のレベルで業務の効率化・生産性向上の具体的な施策の立案・推進できる人材である。
これら上位にランクされた業務の多くは、中高年者のこれまでのキャリアを活かせるものが多い。
こうした人材の社内ストックは一般的には少なく、一朝一夕に育てられるものではない。
特に、人材ストックの少ない中堅・中小企業の場合は深刻である。
また、社員層の厚い大企業でも企業の中核 となる人材は少なく、育成するとしても画一的会社人間をそこまでに育てあげるのは難しい。
そこで、事態を早急に打開するために、経営課題を解決できる高度な専門能力を持った人材の中途採用が不可欠となっている。
特に、中堅・中小企業においてのこうした人材への不足感は極めて強い。
大きい「中途採用」のメリット
必要とする人材を確保するための対応策として、まず上位にあげられるのは当然の結果として、「社内の人材育成・配置転換」、「新規学卒の採用と育成」である。
注目されるのは第3位に「中途採用による人材の補強」があげられ、3割近い企業が中途採用を行っている事実である。
激変する経営課題に直面、社内の人材が育つまでは待ってはおられない企業が多くなっているのである。
この中途採用を行う理由であるが、新卒が採用できないという 理由は最下位であり、中途採用ならではのメリットが上位にあげられ、中途採用が企業にとって必然化していることを示している。
「直面する経営課題に対応する特定部門の特定能力を補強するため」、
「キャリア・実績をもとに採用できるので、新卒よりも確実な人材が採用できる」、
「他業界や他社の高度なノウハウやスキルを取り込むことができる」
が上位の理由としてあげられる。
なお、今後の大卒者確保の方針として、全面的に新卒採用で対応するという企業は3社に1社にとどまり、6割の企業では中途採用を継続する意向を示している。
特に、中堅・中小企業では4社に3社が中途採用継続の方針である。
能力・経験・姿勢が採用の最重視点
大卒中途採用者の採用条件として重視度が増している要素として4社に3社が「能力・専門性」をあげている。
第2位は「経験や知識の豊富さ」で6割弱、次いで「取り組み姿勢・意欲」で4割弱の企業が重視度が増したとしている。
以下、「課題解決能力」、「実行 力・リーダーシップ」、「仕事に対する視点・視野」となっている。
しかし、従業員規模別にみると若干のニュアンスの違いがある。
大規模企業群では能力、経験に次いで課題解決能力があげられているのに対し、小規模企業群では能力に次いで取り組み姿勢・意欲があげられ経験はその次になる。
いずれにせよ、現在の厳しさを増す企業環境下の中途採用には、何よりも経営問題解決のための具体的な能力と熱意が問われているといえる。
30代前半中堅社員に企業ニーズは集中するが・・・・
中途採用の対象層を年齢別にみると、30代前半、次いで20代後半の人材を6割近い企業が中途採用の対象としている。
これが40代後半になるとわずか4.2%、50代以上では2.3%となる。
想定される役職でみると中堅一般社員へのニーズが最も高く5割強、次いで主任・係長クラスとなっている。
これに対し、課長クラスでは22.4%、部長クラスになると6.2%の企業がニーズがあるとしているにすぎない。
以上、ここでも中高年にとっては厳しい条件が示される。
しかし、経営課題の変化、必要とする人材の高度化にともなって、中途採用 人材の年代は上昇傾向にある。
中高年ホワイトカラーにとって重要なことは、肉体的年齢へのこだわりを捨てて、自分の精神的年齢、頭脳的年齢の若さを売り込むことが出来るか、否かではないだろうか。
相手企業にとって必要な人材であり、また魅力ある人材であれば「転職=天職」への道は開かれるはずだ。
企業の転職支援も活発
一方、社員を出す側の企業も転職を促進するために様々な対策を打ちだしている。
特に、大手企業の場合は「社員にやめていただく」ために至れり尽くせるともみえる支援を行うケースが増えている。
例えば、日本型経営の典型ともいえる松下電器産業は、5ヶ年計画で終身雇用・年功序列をベースとした雇用形態を根本的に見直すこととしており、その第一弾が96年4月に転職を支援するために制度化した「ライフプラン支援制度」である。
この制度は退職金の特別加算と休暇制度が二本柱。
退職加算金は若いほど多く、50才なら年収の2.5年分、55才なら1年分となる。
また、退職直前の3ヶ月は資格取得など転職のための有給休暇期間とし、給与・ボーナスも支給される。
この制度が適用されるのは50〜58才の課長職以上でグループ企業を含む9万人の社員のうちの約4,500人である。
この制度の利用を希望する社員には、社長直轄のキャリア開発室を設置、情報提供などの支援を行うことになっている。
こうした制度は比較的歴史の浅い業界でも見受けられる。
例えば、コンピュータ業界。
今ようやく定年を迎える社員が出始めた段階だが、十数年後には停年となる40代後半から50代にかけての団塊の世代が多く、社員の年齢構成がいびつになっている企業が多い。
すでに紹介した、日本IBM社の早期退職者優遇制度もそれに対応した制度である。
ここでは、日本ユニシス社の「進路選択支援プログラム」について概略述べる。
同プログラムは94年3月に施行。
転籍、再就職、独立の三つの柱からなり、次の6つの選択肢のうちのいずれかを選ぶことが出来るようになっている。
- (1) 子会社への転籍…対象50〜55才
- (2) 関連会社への再就職…対象50〜55才
- (3) 協力会社(主に地方)への再就職…対象48〜58才
- (4) その他の企業への再就職…対象45〜58才
- (5) 独立支援(UFP)…対象55才未満、勤続年数20年以上
- (6) その他の独立支援…対象45〜58才未満
この制度がスタートして、不況を反映してか一般企業への再就職は2割にとどまり、最も人気のあるのは「その他の独立」だったという。
なお、UFPとは「ユニシスファミリーパワー」の略で、日本ユニシスの事業委託と支援により独立するケースを指すが、現実には利用されていないという。
このように、大企業、有力企業に所属しておれば、退職金加算、退職のための研修、準備のための有給休暇、さらには転職先の紹介など様々な転職についての支援も受けられる。
だが、問題はこうした支援がほとんど受けられずに転職へと追い込まれる多くの中高年サラリーマンが、もう一方にはいることである。
資金的なユトリもなく転職支援の制度もない中小企業に勤めているような場合、ある日突然会社が倒産した場合、自ら会社の支援も無視して会社を飛びだした場合などである。
孤立無援、自分で再就職先を見つけなければならない。
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