履歴書に自分のやった仕事が書けるか
中高年には会社への帰属心が強かった。
「社宝」と呼ばれるまでには至らなくとも、なにかの形での会社からの認知を欲しがった傾向がある。
企業もまた、その心理を利用した。
業務改善活動や効率追求運動が大成功を収め、日本企業の競争力アップに結びついたのは、単に企業が求めただけではない。
裏には、そうした活動の推進が、サラリーマン管理職の切ない帰属心を満足させた事情もあるのではないか。
会社に貢献しているという気持ちが会社人間をますます会社へと傾斜させていったし、組織大事の管理職が必要ともされた。
ここで、あなたに一つ質問をしたい。
あなたは、履歴書に自分のやってきた仕事が書けるだろうか。
大企業のサラリーマンであればあるほど、おそらく黙り込んでしまうはずだ。
人材銀行には40代、50代のホワイトカラー管理職の登録が急増し、その数は、バブル時代の3割以上にも上っている。
そうしたサラリーマンに「あなたはなにをしましたか」と聞くと、
「係長、課長を経験しました。海外勤務もしました。地方勤務もしました」と一様に口にするということである。
このようなことは、しょせん履歴の一部分でしかない。
「自分はなにをしたのか」と尋ねることは、自分の仕事や個性、つまり差異を問うことである。
人と同じことをやった部分ではない。
いまいる会社というアイデンティティを離れても、頼れる自分があるかということだ。
スぺシャリティの問題である。
仮に、会社を辞めるというとき、会社が揺れるような差異の持ち主であれば言うことはない。
「自分はこういう仕事をやり遂げました」と語れる人は、それを武器にどこででも活躍できる。
自分のなかに、自分の発展性を持っている人である。
転職の場合は、それが顕著に出る。
あなたが採用担当者であれば、「私は○○会社の部長でした」というだけのこれといった能力もない人、経験した仕事もまったく同じという規格化されたサラリーマンに、だれが高いお金を出すだろうか。
頭を下げてまでもらい受けるだろうか。
いままでの日本企業では、どちらかといえば、記憶力のいい、暗記力のいい秀才型、官僚型の管理職が強みを発揮していた。
それは、アメリカといういいお手本があったからであり、その模範を間違いなく理解できる能力に意味があったからだ。
アメリカの10年後が日本と言われたように、技術にしても、ノウハウにしても、アメリカの軌跡をたどり、改良を加えればよかった。
課長にしても、部長にしても、それほど創造的なタイプは必要なかった。
そこでは「自分にはなにができるか」と問うことは、必要なかった。
あまり異質なもの、創造的なものを持ちこもうとすると、かえって嫉妬社会の反感を買い、「あいつまたスタンドプレーをしようとしている」とか「またまた向こうウケを狙って」などと非難されたものである。
極端に言えば、仕事はあまりできないが、ニコボン型とか、人情型とか、あるいはウマニンジン型管理職が幅を利かせていた。
変化の予感から、感性が重要、創造性が必要とは叫ばれていたが、これまでは目標達成型、任務遂行型の下士官タイプで十分に成果を挙げ得た。
またそうした人間が昇進していったことも事実である。
部下の能力を伸ばし、巧みに長所を引き出し、次代の人材・事業を育成することが管理職の重要な仕事であるのに、目先の仕事をうまく終わらせるためのテクニックが大事であると勘違いされていた。
しかし、仕事のできないニコポン型はもういらない。
「キミ、頼むよ」とにっこり笑って部下の肩をポンと叩こうとしても、ドライな新人類から「別の仕事がありますので」と、軽くいなされてしまうのがおちだろう。
人情型の値打ちも下落している。
とくに、プライバシーに干渉されるのを嫌う若い世代は、人情型上司を避けようとする。
職場進出目覚ましい女性社員の肩をポンと叩けばセクハラ騒ぎを引き起こしかねないし、また一杯飲み屋での強引なノミニケーションは不倫と間違えられる。
いまどきわびし気に一杯飲み屋でのノミニケーションをやっているのは、価値観の激変に戸惑う中高年と価値観の喪失に身を焦がしている団塊の世代だけである。
若い人はさっさと自分たちだけの仲間で飲み会を開いたり、アスレチッククラブで汗を流している。
ウマニンジン型上司も、若い人からはもうほとんど相手にされていない。
ライバルなどいらない、マイペースで会社人生を送りたいと言う世代だから、「ライバルに負けるな、頑張れ」は通用しないし、「頑張らなければ昇進できないぞ」と脅そうにも、もうポストレス時代だということをはっきりと知っているから、そんなニンジンは本気にはしない。
せいぜいが「アナクロなおっさん」というぐらいで終わってしまう。
仕事は自分で発想し、自分で判断するしかない時代である。
自力航海の時代に入っている。
そうした乾いた実力主義の時代には、ニコポン型とか、人情型とか、あるいはウマニンジン型管理職のいる場所はどんどん少なくなり、そのうち居場所がなくなるだろう。
いまや、トップだけにかぎらず、どういう仕事を自分がやり、そして部下にやらせるか、どういう方向へ部下を走らせていくかという戦略眼、判断力が管理職には必要とされている。
管理職とはミニ経営者である。
それが、管理職に要求される実力主義の「実力」の中身である。
履歴書に書くべき内容とは、そうしたものでなければならない。
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