シニアライフの領域を拡げる自己啓発
仕事を中心とした自己啓発、資格取得についてはすでに説明した。
ここでは、シニアの生きがいとしての自己啓発に絞って概括してみる。
生活領域を拡げる三つの自己啓発
昭和63年7月、文部省はそれまでの「社会教育局」を「生涯学習局」として組織を拡大した。
上から押しつける「教育」から、自らの意志を大事にする「学習」へと言葉の上では一つの進歩である。
しかし、内容的にはやはり上が決めた形式的制度という従来のパターンとは大きく変わっていない。
こうした批判はともかくとして、この生涯学習という文教政策は高齢者に対しても様々な学習機会を与えることとなった。
高齢者に してみれば、この与えられた機会を活用して、これからの時代に必要になる能力を開発するとか、新しい生きがいを発掘すればよいのである。
こうした場を活用しながら、シニアの生きがいのための自己啓発の方向として、次の三つを取りあげることにする。
- (1) 学習することで、青春を取り戻し、新しい仲間をつくる(コミュニティ型)
- (2) 若い頃からの夢であった専門的学習研究を行い、自己実現を図る(研究型)
- (3) シニアとしての社会貢献の技術を身につける(社会貢献型)
青春を取り戻す
文部省の生涯学習政策に沿って、各自治体には、老人大学と呼ばれる生涯学習講座が開設されている。
そこは、学習することが当然主目的だが、シニアの仲間が集まって青春を取り戻す場ともなっている。
埼玉県の老人大学、名付けて「生きがい大学」のケースでその実態をみることにする。
学習期間によって1年過程と2年過程の二つのコースがある。
1年過程の場合は学習日が月2回、午前10時から午後4時半まで。
1時間半の講義が午前と午後に一回ずつある。
午後2時45分で授業が終わり、あとは課外活動となる。
そこでは、ダンス、詩吟、書道などのクラブ活動が行われる。
学園祭や修学旅行などの自治会活動も活発で仲間づくりに役立っている。
2年過程は週に1回、午前10時から午後5時まで。
生活科、福祉科、ふるさと伝承科、美術工芸科など専門コースに分かれており、合同学習を交えながら、専門別に学習を深めている。
場所は、福祉センターやコミュニティセンターを利用し、1年過程が7会場で、2年過程は2会場で行っている。
集ってくる学生は非常に熱心であり、皆勤賞の人は毎年30〜40%に及ぶという。
こうして熱心に通い続ける動機は、人との出会い、つまり仲間との交流である。
開校当初に力を入れるクラブ活動や自治会活動は、シニア同志の仲間づくりに大きく貢献している。
老人大学は、学習もさることながら、シルバーのためのコミュニティとしての役割が高く評価される。
専門を深める
さらに専門的に学習したいとすれば、大学の大学公開講座を受講する手もある。
文部省調査(93年度)によれば、全国の国・公・私立大学534の約85%にあたる452校で、公開講座が開かれている。
講座数も4,590あり、延54万人の人が受講している。
そして、それにあきたらず、本格的に勉強したい人は、大学への学士入学(編入試験を受けて3年からの入学)、大学院入学ということになる。
かつての大学生活は就職のためのものにすぎなかった。
自分が本当に学びたいものはほかにあったとして、定年になってから大学へ再入学する人は年々増加している。
シニアの生きがいとしての専門分野の学習である。
仕事等の束縛から開放された定年退職後の時間は、自由でゆったりとした気持ちで学習と研究を進めることができる。
社会貢献の技術を身につける
仕事のための自己啓発、資格取得については、すでに検討した。
ここでは、シニアとしての社会貢献という視点から、次の二つを自己啓発のテーマとしてとりあげる。
第一は、社会福祉のため技術取得である。
点訳、朗読、手話などで一人前のボランティアとして役立つまでには、相当期間の通信教育や講習会による訓練が必要であり、手話通訳士のように資格取得を求められるものもある。
ある広報誌で朗読ボランティアを募集したところ百数十人の応募があったが、約1年の発声や読み方の訓練の間にはほとんどが脱落、ボランティアとして残ったのはわずか2名だったという。
ホームヘルパー(老人家庭奉仕員)も同じように研修が義務づけられている。
厚生労働省は91年度から老人介護のためのホームヘルパー養成制度を導入、地方自治体や介護福祉学校などが研修を行っている。
養成過程には三つコースがあり、主として家事援助にあたる3級課程で40時間、身体的介護にあたる2級課程で90時間、基幹的なホームヘルパーになる1級課程では360時間の研修が必要になっている。
このように、簡単に社会福祉はというが、一人前になるまでには、辛抱強い訓練とやる気が必要なのである。
もう一つは、これから伸びそうな分野として、余暇時間の過ごし方など老人の人生を指南するアドバイザーの分野がある。
これに関連する主な民間資格には次のようなものがある。
- 文部省系……日本レクリエーション協会の「余暇生活開発士」
- 厚生労働省系……健康・生きがい開発財団の「生きがいづくりアドバイザー」
- 経済企画庁系……シニアルネッサンス財団の「シニアライフアドバイザー」
資格取得のためには、所定の養成講座を受講しなければならない。
余暇生活士の場合は1年間の通信教育、健康生きがいづくりアドバイザーは11日間の研修、シニアライフアドバイザーは8日間の研修が条件である。
ただし、この資格は現在のところ、資格をとってもそれを生かす場所は少ないといわれる。
しかし、これからは日本人にとっては未知ともいうべき、高齢化社会の余暇優先時代が始まり、こうしたニーズは高まる。
現在の中高年サラリーマンは余暇下手であり、これから始まる余暇を中心とするシニアライフの長い時間をもてあましてしまう懸念がある。
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