経営として成功へのステップ
往々にして個人が独立して事業に取り組む場合は、自分の好みとかこれをやりたいというロマンが優先して事業化を始めることが多い。
もちろん、これは決して悪いことではない。
しかし、それが投資あるいは運営管理といった経営面での甘さとなり、独立事業失敗につながるケースもあることも事実である。
個人が始める事業だからといっても、それは道楽やボランティア活動ではない。
事業である以上、失敗は許されない。
そこで、経営的視点を中心に、独立に際しての成功ポイントを検討することにする。
基盤が弱く碓実性に欠ける個人の独立創業
企業が進める多角化開発と個人の独立創業の間には根本的に異なるものがる。
それは、企業の場合は本業という確固たる事業基盤があり、そこからスタートできるということである。
これに対して個人創業の多くは、自分と自分のわずかな資産以外に事業の基盤がないのが通常である。
会社から独立して、これから独立しようとするサラリーマンはこのことをはっきり認識しておく必要がある。
ゆとりのある企業の多角化事業開発
個人創業に比べると、企業の多角化事業開発は開発のあらゆる局面でゆとりがあり、成功の確率性の高い開発を行っている。
その特性には次のようなものがある。
・事業アイデアは体系的に、かつ広範に収集している。
・こうしたアイデア群の中から、将来有望な事業、自社の経営資源を最大に活かせる事業、収益性の高い事業で、しかも自社の経営戦略に適合するといった有力候補を効果的に絞り込むことが出来る。
・絞り込まれた有力候補については、フィジビリティスタディ(事業化評価)などにより、客観的で緻密な評価を行い、より確実性の高い事業化決定を行うケースが多い。
・開発にあたって人材を集めやすい。
適材が居れば社内スカウト、社外からも企業の信用力でスカウトが容易になる。
・また、会社の信用力により資金調達、ブランドカにより新事業に対する顧客吸引が容易である。
・本業が順調であれば、ゆとりのある開発が出来る。
例えば、長期 的採算性が証明できれば、単年度収支で3年目から黒字でよいとするなど。
オーナーとしての執念が強味の個人創業
これに対し、個人が独立して事業を興すとなると、会社の場合とは全く逆になる。
事業基盤といえるものは自分と自分のわずかな資産だけである。
そして、頼れるのは自分だけであり、自分で全部やらなければならない。
そこで、これから始める事業に自分の全てを投入せざるをえない。
また、生活のためには、一日も早く事業を軌道に乗せねばならない。
そこには、企業の多角化開発にみられるような余裕はない。
逆に、このゆとりのなさが、サラリーマン社員が推進する多角化事業にはない強味ともなる。
即ち、オーナーとして自分の事業をどうにかしようとする執念である。
ゆとりがないだけに仕事に真剣に取り組む。
オーナーとしての夢とロマンがあり、個人事業ならではのパーソナリティも発揮できる。
これらは顧客にとっての強力な魅力となりうる。
もっとも、フランチャイズ事業などに参加した場合、この魅力はあまり発揮できないが。
ところで、問題はその反面にある事業に対する「思い込み」の激しさである。
これについては先に指摘した通りだが、事業に対する執念が強いのはいいが、その事業の客観的な姿が見えなくなることもある。
例えば、事業を始めるにあたっての動機とその経過を考えてみることにする。
一般的ケースとして、ほとんどの人はライフワークといわないまでも、自分で是非やりたいという事業や仕事があり、それについての「思い」がある。
人生の転換期にたったような時、その事業の有力情報が舞い込む。
しかも、それが自分の能力、性格にぴったりだ、自分の資産でも何とかなると知ると、「思い」が「思い込み」へと跳ね上がる。
「これぞ、自分がやらねばならない事業」と思い込みも激しくなり、他人の意見にも耳を傾けないような事態も起こる。
ここに、個人事業の創業が確実性に欠ける背景がある。
たとえ小 規模であっても、創業にあたっては経営の定石は確実に踏まなければならない。
創業成功への三つのステップ
経営として成功させるためには、創業にあたって次の三つのステップが必要である。
(1) 様々な角度からの、事業そのものとその成立性についての客観的 評価
(2) 創業にあたってのネック・リスクとその打開策も十分に検討した事業計画書の策定
(3) 創業にあたって経営形態の決定
創業決断にあたってのチェックポイント
個人事業にも様々な業種・業態がある。
ここでは、その一般的ケースについて、創業決断にあたってのチェックポイントをかかげるものとする。
(1)事業そのものについてのチェック
・事業の成長性(業界全体として)
・事業全体の成長性如何にかかわらず、将来的に発展が期待される事業コンセプトが構築できるか。(有望なスキマを発見できるか)
・目指す事業の経営特性を十分に把握しているか。
・事業の収益性はどうか。
(2) 市場についてのチェック
・対象とする顧客とその特性は何か。
・顧客の求めるニーズは何か。 それに対応する商品・サービス等のコンセプトメーキングは出来ているか。
・販売エリア、販売ルート等の設定は出来ているか。
・顧客は十分にいるか。 またそれを開拓できるか。(狙いとする地域、ルートにおいて)
・顧客、地域市場等の成長性はどうか。
(3) 競合度についてのチェック
・競合先・競合商品は。 それはどんな特性があり、その強味は何か。
・業界・地域等の競合構造はどうなっているか。 競合度は強いか、弱いか、これからはどうなるか。
・自分の事業は何を特徴として参入するのか。 その強味、差別化ポイントは何か。 シェア、あるいは地域ランクの目標をどこにおくか。
・その強味は圧倒的強味になりうるか。 そして将来にもわたってその強味を維持することが出来るか。
・自分の事業・商品・サービスの弱味は何か。 それは致命的なものにならないか。 どうしたらそれを克服できるか。
(4) 事業資産についてのチェック
(注)事業資産評価の一例として、遊休地を活用した場合の土地についてのチェックポイントをここでは示しておく。
・土地の面積、地形、接道条件など狙いとする事業に適合するか。
・活用にあたって、法的規制、周辺状況などに制約条件はないか。
・道路条件、後背市場など立地条件はその事業に適合するか。
・土地環境、立地条件は、今後変化しないか。 変化するとすれば、それはその事業にとってプラスとなるか、マイナスとなるか。
(5) 自己適性についてのチェック
・自分の性格・能力と事業との適合性はどうか。
・事業を始めるにあたって、その事業に対する知識・経験・技術はどれ位あるか。
・不十分とすれば、それをどう克服するか。
・事業を起こすにあたって、家族の諒解を十分にとっているか。 また、家族の協力を得られるか。
(6) 創業にあたってのチェック
・どれだけの投資が必要か。
・必要資金のメドはついたか。
・事業収支を十分にチェックしたか。 リスクはないか、リスクがあればそれにどう対処するか。
・事業開始はいつを目指すか。 準備期間は十分か。
・それまでに、設備、人、ノウハウの取得などが間にあうか。
以上、創業にあたっての主なチェックポイントをかかげた。
しかし、このチェックポイント全てにわたって肯定的な解答が出てくるような独立事業はありえない。
要は、事業化にあたって問題点を洗い出し、それにどう対応するかによって、失敗のない事業づくりを進めることが目的である。
即ち、このチェックリストの使い方の第一は、「ノックアウト条件、つまり、この事業が失敗すれば何が原因か」というその事業が持つ致命的な弱味、リスク、ネックを発見することにある。
そして、それをどうやって克服するかを検討することである。
もし、それが克服できないとすれば、どんなにやりたくても経営面からはその事業は断念すべしという結論となる。
使い方の第二は、成功条件を明確にし、さらにそれを発展させるために使うことである。
自分の事業の強味、競争先に対する差別化ポイントを洗い出し、それを組み合わせるなどによりさらに魅力あるものに創りあげる。
これから始める事業のセールスポイントづくりにも役立つはずである。
この創業についてのチェックポイントは、客観的な事業化についての評価とチェックと同時に、以上のように前向きにも活用していただきたいと考えている。
事業計画は具体的につくる
この事業をするという決断が出来れば、今度はそれをどう実現して行くかという「事業計画」の策定の段階に入る。
事業計画書は一般的には、次のような構成になる。
- (1) 事業ビジョン
- (2) 基本構想(マスタープラン)
- (3) 設備投資計画
- (4) 資金計画
- (5) 人員計画
- (6) 営業計画
- (7) 収支計画
- (8) 資金回収計画
- (9) 運営体制と運営計画
- (10) 事業化スケジュール(準備計画)
- (11) 付属資料…市場調査結果、事業化検討経過の要約など
この事業計画書は確固たる見通しに基づいて作成しなければならない。
希望的観測や皮算用では駄目である。
事業計画は、その作成過程も大事である。
それまでは抽象的にしか思えなかった事業の姿が、数値などの検討により具体的に整理され、はっきりとした形になってくる。
すぐれた事業オーナーは通常収支計画等については三通りのコースを用意しているといわれる。
一つは「晴予算」、最もうまく行くケース。
二番目は「雨予算」、最も厳しいケース。
三番目はその中間にある最もありそうなケースである。
これから新しく始める新事業の先行きを見通すことは容易ではない。
いくつかのシナリオを用意し、困難な事態が起こった時、ただちにそれに対応できるような心の準備はしておきたいものである。
経営形態を決める
独立する場合、個人としてスタートする場合と、会社を設立するという二つの方法がある。
事業規模を将来大きくしたいと考えている場合、社会的信用が欲しい場合、税務上の特典を出来るだけ活用したい場合などは、会社設立が望ましい。
会社には、株式会社、有限会社など4種類がある。
ここでは、若干実務的にはなるが、株式会社を中心に会社設立の概略について触れておくものとする。
(1) 会社の商号と目的を考える(商号については複数以上考えておく)
(2) 各地域の法務局に出頭し登記官のチェックを受ける(登記する区市町村で同じ業種に同じ商号はないか、目的に問題はないかをチェック)
(3) 会社定款作成
(4) 公証人役場での定款の認証
(5) 金融機関での株式発行手続き
(6) 必要資金は、資本金が株式会社で1,000万円、有限会社で300万円が最低必要である。
これに設立コストとして、株式会社の場合は登録免許税、公証人認証料、金融機関手数料、代表取締役印作成料などで約30万円かかる。
有限会社の場合は、これよりも5〜10万円少ない。
なお、こうした設立手続きは文献等もあり、個人でも容易である。
時間等に制約のある人は、司法書士に依頼することもできる。
その場合はさらに手数料15万円ほどかかることになる。
独立を目指しての実力づくり(事例)
中高年がいきなり独立するには、以上のようにかなりの無理と飛躍が伴う。
こうした中で、独立予備軍ともいえる中高年層が集まり、自立に向けての実力づくりを行っている集団がある。
最後に参考までに紹介しておきたい。
その集団は「グループ企画破壊」と称するサラリーマン頭脳貸出会社。
その母体は1991年発足の異業種交流会「アーバンクラブ」、上場企業を中心に153社、部課長600名という日本最大といわれるミドルのネットワークである。
同クラブでは定例のセミナーを開催する以外、会員の発案による同好会活動も活発である。
グループ企画破壊も実は同好会の一つ「開発プロ研究会」を発展させたものである。
登録メンバーは大企業を中心とする120名の現役ミドル。
クライアントの要請に応じて、新製品開発から施設のコンセプトづくりと運営、事業ビジョンの策定、教育研修などのコンサルティングを行っている。
独立予備軍ともいえる企業内エリートスタッフは、専門別に経営、人事、経理、営業、マーケテイング、技術などを8つのチームに登録されている。
仕事は原則としてアフター・ファイブに行うことを原則としており、会社の業務に支障をきたすことはないとしている。
クライアントのコストは経営コンサルタント会社、シンクタンク等のそれより大幅に下回ることもあって引合いは活発だ。
95年3月に発足。 100件もの引合いがあり、そのうち40件を手掛けているという。
中堅・中小企業から依頼が主体である。
「社外の仕事を他社の人とチームを組んで行うことで、自分の実力が端的に見えてくる。
自社内の仕事とは違った熟練度が求められ、こうした他流試合の成果は、ミドルにとって大きな自信になる」 と同グループ代表の大東敏治氏は語っている。
大東氏によると大企業にはいろいろのタイプのエリートがいるが、そのいずれも社内の仕事には自信があるが、社外で自立して仕事をするには不安を抱いている。
同グループでの仕事は実力のブラッシュアップとなり、自立へのきっかけにもなるとしている。
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